胡乱な日常の真相
 
偶然と必然の日常をレビュー。
 


『羊をめぐる冒険』読了。

読みごたえのある作品だった。
最後はちょっと鳥肌立つぐらい。

物語の内容は、まさに題名どおり、羊をめぐって冒険をする。
まぁ読んでのお楽しみってことで。
物語の中でも
「端折ると意味がなくなっちゃうんだ」
と言っています。
なので下手な概説などないほうがよいでしょう。

いろんなものが音を立てて崩れつつ、それでも確かに時代は前進して。
読んだ後には、残酷なまでの時の流れを目の当たりにする。
僕たちは一秒一秒をくしゃくしゃと丸めて後ろに放り投げながら歩いているのだ。
そしてそれらはいつのまにか凄い高さの山になっている。
ある日振り返ってそれを見た時、その高さに呆然とする。
そこには甘美な過去と残酷な過去が入り混じって、僕たちに話し掛けてくる。
「昔はこんなんだったぜ」
それは心地よくもあるし、痛々しいこともある。でもなんとなく居心地がいいのだ。
それでも、僕たちはその山を蹴散らして先へ進まなければいけない。
過去は過去でありさえすればいい。
でも未来はこちらから歩かなければ近づかないのだ。
だから僕たちはどんなことがあっても前へと歩みを進めるのだ。
そんなことを考えさせられるような作品だった。

村上春樹作品の主人公は、大抵物分りがよくて、どこか達観している。
いろんなことを簡単にあきらめて、でも何か心の奥には芯があって。
ゆずれないところはゆずらない。
彼らには僕には見えていないいろんなものが見えているんじゃないかと思うことがしばしばある。
彼らはお金で買えない大切なものを持っているし、それはどれだけ苦境に追いやられても色あせることはない。
自分の意志とは違うところで何かが動いて、それに巻き込まれつつも、自分を見失わない。
だから彼らの行動は好き勝手に動いているようで、でも最良の道を選んでいるように思える。
それは会話の端々にも出てくる。
彼らは何か大変なことが起こったときに、
「やれやれ」
とよく言う。
やれやれ。
その一言で済ましてしまう。
これはすごいことである。
単なる諦めではなくて、ここでどうこう言っても仕方がないから先に進もうよ、という感じを含んでいる。
それは後悔や諦めや恨みなんかを肯定的に解釈した言葉だと思う。
やれやれ。なんて苦しいんだ。こんなことならこの道を選ぶんじゃなかった。
でも今僕はこのことをやらなければいけないんだ、っていう自分の中での確固たる価値観があるように思う。

僕が村上春樹の小説を読むのは、主人公のそんなところに惹かれるからだろう。
またそれを書いている村上春樹自身にも。
村上春樹の小説が今なお色褪せず読まれつづけているのは、そんな理由もあるんじゃないだろうか、とふと思った。

人生に一度ぐらいは村上春樹の小説にどっぷりとはまってみるのもいいかもしれない。

羊をめぐる冒険(上)( 著者: 村上春樹 | 出版社: 講談社 )羊をめぐる冒険(下)( 著者: 村上春樹 | 出版社: 講談社 )



5月3日(火)03:02 | トラックバック(0) | コメント(2) || 管理

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コメント

羊をめぐる冒険

こんにちは。

>主人公のそんなところに惹かれるからだろう

そうなんですよね。
ヒーローでもないのに、なぜか僕に感情移入してしまいます。

この作品、僕の魅力がたっぷり出てますよね。
あと、ラストが切なかった。。

残るは、『ダンス・ダンス・ダンス』
こちらも躍動感溢れる、楽しい作品です♪


 by 金の猿 | HP | 5月4日(水)11:01

ダンス・ダンス・ダンス

これもすでに買っているので、もうちょっとしたら読みたいと思います。
今は『村上朝日堂はいほー!』を読んでいます。
これは軽くて読みやすいですね。
でもやっぱ村上春樹の真髄は長編小説ですね。
ダンス・ダンス・ダンス、楽しみにしておきます。


 by もちくん | Mail | HP | 5月5日(木)01:56


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